わからなさを抱えたままのビジネスアイデアで、資金調達は可能なのか?

2026年3月10日(火)に開催された「武蔵野美術大学実験区 DEMO DAY 2025」。トークセッションでは、クラウドファンディングサービス「CAMPFIRE」の立ち上げメンバーであり、合同会社ノンブル社代表の出川光さんをお招きし、「わからなさを抱えたままのビジネスアイデアで、資金調達は可能なのか?」をテーマに、さまざまなお話をうかがいました。

【ゲストプロフィール】
出川光
合同会社ノンブル社 代表

1987年東京生まれ。約100年続く山岳系の出版社「山と溪谷社」を家業に持ち、幼い頃から写真や文章に触れる。武蔵野美術大学造形学部映像学科写真専攻を卒業。新卒入社のリクルートメディアコミュニケーションズでの営業・ディレクターを経て黎明期のクラウドファンディングサイトの立ち上げを5年間行う。
2016年より編集・執筆・写真を軸にキャリア転向。2016年に「PARTNER」、2017年より「マイナビウーマン」の編集長を務めたのち、2018年よりフリーランスとして独立。編集・執筆、写真のスキルをいかし、MVV制作、オウンドメディアの立ち上げ、採用広報の記事制作を行う。2024年にノンブル社を立ち上げ。単著に『クラウドファンディングストーリーズ』(青幻舎)がある。

【モデレータープロフィール】
酒井博基
武蔵野美術大学実験区 プロデューサー

1977年和歌山県生まれ。武蔵野美術大学大学院修士課程修了。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科博士課程中退。
視点をデザインし、未来を拓くクリエイティブカンパニー「d-land」代表。「中央線高架下開発プロジェクト(コミュニティステーション東小金井)」「武蔵野美術大学実験区」「日野市妄想実現課」など、地域・大学・自治体の共創プロジェクトを数多くプロデュース。グッドデザイン賞ベスト100および特別賞[地域づくり]など受賞歴多数。
著書に『ナラティブモデル 一人称視点から始めるビジネスデザインの思考法』(武蔵野美術大学出版局、2025年)、企画・監修した書籍に『ウェルビーイング的思考100 〜生きづらさを、自分流でととのえる〜』(オレンジページ、2023年)がある。


美大生を思い浮かべたクラウドファンディングプラットフォーム

酒井博基(以下「酒井」):出川さんには、今年度の実験区のアクセラレーションプログラムの中でクラウドファンディングを実施するにあたり、メンターとしてそれぞれのチームに伴走いただきました。ご自身の著書である『クラウドファンディングストーリーズ』にもありますが、まずは出川さんがクラウドファンディングのプラットフォームを立ち上げた背景を聞かせてください。

出川光さん(以下「出川さん」):私は2010年にムサビを卒業し、ビジネスの世界に入ってキャリアを積んだあとに、起業の機会をいただいてCAMPFIREを立ち上げました。その背景にあるのが私自身のナラティブなので、少しだけご紹介します。

私が美大生だったころは、アーティスト志望で社会にうまく適応するには不器用すぎる人や、在学中に成功の兆しが見えなければアーティストを目指すことを諦めてしまう人も多くいました。一方で、私は就活をしていると創作をやめたと思われそうで、就職のことや、自分の作品をどうやってお金にしていくかというようなことを、学生同士で話す機会がまったくありませんでした。

CAMPFIREを立ち上げるときに私が思い浮かべたのは、そんな美大生たちの姿でした。自著である『クラウドファンディングストーリーズ』にも書きましたが、「ライブハウスをいっぱいにするほどファンがいても、事務所との契約が更新できず音楽活動を中止してしまったミュージシャン」「すばらしい絵を1年に1枚だけ描くけれど、まだ誰にも見せずに絵画教室で先生をしているアーティスト」「売るほどではないからと、すてきなアクセサリーをつくってプレゼントしてくれる友人」などです。つまり、美大生のためにクラウドファンディングのプラットフォームをつくったということなんです。


酒井:クラウドファンディングという資金調達の仕組みを美大生と接続したい、という思いがあったということですね。今回アクセラレーションプログラムでクラウドファンディングを取り入れたのは、実験区のプログラムが個人の内的発意を起点にしているので、その発意をしっかりと語ることができるのであれば、クラウドファンディングの仕組みととても相性がいいのではないか、という仮説を立てたからなんです。

出川さんはクラウドファンディングプラットフォームを立ち上げ、これまでクラウドファンディングに挑戦するたくさんの方の思いに伴走してきています。おそらくプロジェクトの進捗やレベル感もさまざまだと思いますが、どういう段階まできていればクラウドファンディングに挑戦できると判断していますか?

出川さん:一般的にクラウドファンディングには、「アイデア」「テストマーケティング」「プロモーション」「リリース」という4つのフェーズがあります。そのうち「テストマーケティング」「プロモーション」「リリース」については、クラウドファンディングのいろいろな機能が寄与することができるんです。売るかどうするか迷っている段階で市場の反応を確かめることもできるし、売り出すことがすでに決まっていて認知を高めたいときにはプロモーションとして使える。商品のリリースに使ってたくさん売ることもできる。ただ、「アイデア」については、アイデアをつくること自体はクラウドファンディングでは実施できないので、少なくともそれが言語化されていることが必須の条件です。

さらにいうと、アイデアの次にテストマーケティングのフェーズがありますが、それにはプロトタイプが必要なので、アイデアやコンセプトができているだけではちょっと弱い。プロトタイプができていれば、「いまクラファンをやってしまったほうがいい」と自信を持って言うことができます。

社会に接続するための言語化で増していくリアリティ

酒井:アクセラレーションプログラムの参加者たちは、ビジネスデザインアワードでプレゼンするところまでは言語化できていましたが、クラウドファンディングという場で説明するにはまだふわっとした部分がありました。クラウドファンディングを実施するための言語化をする段階で、どんどんリアリティが増していったんです。プレゼンで言語化できたと思っていたけれど、現実に落とし込むにはまだ足りない部分があった。そのギャップに気づいてほしいという思いもあって、アクセラレーションプログラムのなかにクラウドファンディングを導入したという狙いもあります。出川さんは各参加者に伴走していてその辺りはどういう印象でしたか?


出川さん:ビジネスデザインアワードのプレゼン時の言語化やコンセプトが弱かったわけでは決してないのですが、学生たちがアワードのときにポスターにまとめたものは、まだ“作品”だったかなという印象でした。市場原理からは少し距離を置いたコンセプトとか、本人のナラティブとか、そういうものから生まれてくる制作物だったかなと。そのクオリティが低いわけでもないし、作品としては言語化できている。ただ、クラウドファンディングという視点では、それを市場原理のなかにポンと投げるわけなので、メンターとして「それでは売れない」と言わないといけない難しさもありました。

酒井:なんとなくはわかるけど、支援のボタンを押すという最後のアクションにつながらないということですね。アワードでの言語化の段階では、そのプロジェクトを一緒になって実現したいという深い共感や、支援するための納得感、客観性のようなものが足りていなかったのでしょうか。

出川さん:鑑賞者が消費者に変わる大きな方向転換なので、言語化の深さというより、その角度をものすごく変えないといけないというイメージです。たとえば、今回学生たちとのコミュニケーションでよく出たのは、「ほかのアウトプットも考えられるのではないか」とか、「あなたならではの優れているところはなにか」という話でした。そういう市場優位性や差別化ポイント、また、事業を回していけるか、何年で利益が出せるかなど、美大生にとっては大変つまらない質問をいっぱいしたかなと思います。

ただ、クラウドファンディングのアドバイスと並行して、人生でなにがしたいのかというビジョンを引き出すようなコミュニケーションもしていました。今回のテーマでもある「わからなさ」の部分は、“そのプロジェクトが本当に自分のやりたいことなのか?”だったのではないでしょうか。その「わからなさ」を明らかにするために、次回からは学生の持つ引き出しのなかだけだと見えていない部分を少し丁寧に引き出すフェーズがあったらよかったのかもしれないと思っています。そのほうが、そのあとに言語化したときの強度が増したのかもしれないと。


酒井:その辺りの伴走者としてのリアルなところをもう少し伺いたいです。プロジェクトをつくる学生たちの意向や迷いを、どれくらい尊重しながら進めていたのでしょうか。

出川さん:もし私が美大出身でなければ、もっとシャープにビジネスの視点でクラウドファンディングの成功に向けてアドバイスしていったと思います。ただ今回は、本人のナラティブである原体験がそれぞれにあり、そのプロジェクト自体が作品のようなものであるというところをかなり尊重したつもりです。手伝いすぎない距離感で、ということも意識していました。

そのなかで、すごくがんばってプロジェクトを構築しクラウドファンディングの準備をしていたけれど、最終的にプロジェクトを「やらない」という意思決定をした学生がいました。ものすごく優等生なテキストとAIの画像を用意して、もうクラウドファンディングを始められるところまでできていたんです。それでも最後に「この画像、本当に気に入っている?」「きっと自分で描けるよね」「あなただったらどうしたい?」ということを聞いていった結果、そういう選択になりました。いまの学生たちは“ビジネス”というキャップをかぶるのがすごく早いので、「ちょっとそれ脱いで」といったコミュニケーションを結構しました。

酒井:たしかにそうかもしれません。僕も、その学生については最終的に辞退してくれたことを喜んでいる部分も半分くらいはあります。実験区の取り組みらしいという感じもするし、実験区を続けるうえでの大きなヒントがそこにあるような気がしています。

おそらく出川さんはビジネス視点でビシビシ指摘していくこともできたと思いますが、そうではない寄り添い方をしてくれた。ナラティブというのは、自分がどのように世界を捉えているかということに通じるものです。アートの場合は作品という媒介を通して社会と応答しながらかたちをつくっていく。それと同じように、実験区でやろうとしているビジネスの創出は、社会と応答するための媒介なんだと思います。それが実験区が掲げている「美大にしかできない、創業の場づくり」なのかなと、2年やってみて感じています。さらに、それは結局ビジネスなのかアートなのかというところが、今回クラウドファンディングを導入してみて、すごく考えさせられたところです。


出川さん:そうですね。クオリティの高い作品という群と、売れるものという群の重複部分に当てはまるものこそが、世の中にも受け入れられやすい制作物なのだと思います。今回学生たちとしていたのは、そのごく狭い部分にプロジェクトを入れるようなコミュニケーションです。でも一方で元美大生としては、「そこに入らなくてもあなたの作品はもうすでにすばらしいんだよ」という気持ちもあるので葛藤していました。

「わからなさ」にOKを出し前に進む

酒井:自分のナラティブを起点に、ビジネスという手法でプロジェクトを社会に差し出すときに、作品が急に商品に変わってしまう瞬間があります。今回クラウドファンディングを始めるにあたり、参加者たちはそこに対する戸惑いに直面したようでした。自分にとっては社会と応答するための媒介だったものが売り物になっていくという。動きまくって、考えまくってプロジェクトをつくってきたけれど、そこで「わからない状態」になってしまう。

ただ、それは自分の思い込みをすごく適切に解体していっている状態で、そこから価値を再構築していくための揺らぎの時間なんです。凝り固まっていたものが分解されて、新しい形や思考、サービスが形成されていく。実験区とクラウドファンディングは相性がいいだろうという仮説を立ててやってみた結果、それがそんなに直線的にはいかないことがわかりましたが、発見はとてもたくさんありました。出川さんは実験区のプロジェクトに伴走し、このプログラムとクラウドファンディングとの相性についてはどのように感じましたか?

出川さん:相性という観点でいうと、美大生だった私が「美大生にはこれが必要だ」と思ってつくったシステムでもあるので、「もちろん合うはず」という根拠のない自信はあります。ただ、乗り越えないといけない心理的なハードルはいくつかありますよね。酒井さんも挙げてくださいましたが、自分の作品を商品と呼ばれることであったり、美大の講評会でも震えていたのに、社会というとてつもなく大きな講評会に顔や名前をさらして作品を差し出し、それに対していろんな反応があるかもしれないという恐怖だったり。特にいまの学生はインターネットに上げることのリスクもちゃんとわかっているので、そういう面でもハードルはあると思いました。


酒井:アクセラレーションプログラムに参加した学生たちはみんな、クラウドファンディングのテキストや素材は完璧に準備して、あとはボタンを押せばいいだけ、という状態からかなり悩んでいました。お金を出してくださいというお願いは、やっぱり友だちでも言いづらいものだったり、プライドの問題もあったりするのでしょうか。出川さんがこれまで見てきたさまざまな挑戦のなかで、クラウドファンディングでぶつかる心理的障壁は、どのようなものがありましたか?

出川さん:日本ではアーティストであることがまずマイノリティです。なにも生産的なことをしていないという謎の十字架を背負っているような気持ちになったり、そういう気持ちにならざるを得ない風潮があるからです。そういう人たちが胸を張って「私の作品いいでしょう、お金を払ってください」と言うには、自分のやっていることにまず自分で“合格スタンプ”を押さないといけない。自分自身が、アーティストやクリエイターという社会の一員であり、価値があるという、自己肯定感を持たないといけない。そこがハードルとしては最も高い気がしています。

たとえば、今回の学生たちにクライアントワークをお願いしたら、すぐできると思うんです。誰かから依頼された、誰かが認めてくれたという、合格スタンプがすでに押してあるから。でも、「アーティストやクリエイターとしての自分や、その制作物には勝ちがあるのだろうか」というわからなさに自分でOKを出すということが、すごく難しいことなんだと思います。

自分でハンドルを握る感触と揺らぎの感覚

酒井:クラウドファンディングをやるには、他者に説明できる状態にしないといけない、さらに言うと納得される状態にしないといけない。そして実行責任が伴う。学生たちにとってプロジェクトを準備している早い段階で資金調達にチャレンジするのは、なかなか大変なことなんだなと今回強く思いました。

出川さん:そうですね。ただ、世の中の人達は誰かのクラウドファンディングの失敗事例をあまり覚えていません。これは長らくクラウドファンディングの担当者をやってきて自信を持って言えますが、失敗しても大丈夫。みんな覚えていないですから。前のめりに転ぶくらいがちょうどいいのです。

企業でもテストマーケティングで出してみて、売れなかったから一般発売を見送ることは珍しくありません。クラウドファンディングはサクセスしなかったから終わりではなく、支援してくださったみなさんに返金されるといういいシステムになっているので、失敗できるという面ではとてもポジティブだと思っています。自分と制作物をさらけ出すためにはひと皮剥けないといけないけれど、特に学生のときのクラウドファンディングで一度失敗するくらい全然大丈夫なんだということを、もう少しうまく伝えないといけないなと思いました。

また、大学3、4年生のときに自分で起業するというやり方もあることを知っていると、進路選択で就職するか作家になるかの2択に絞らずに済む。その決断をしなければいけない前の段階で少しでもビジネスの匂いを嗅ぐような体験ができるのは、すごくいいと思います。


酒井:作家的スタンスでビジネスをつくっていくという、新しい選択肢ですよね。学生たちに対する背中の押し方は、その力加減が難しいですが、まさにそれが実験区でやっていきたいことなのかなと思っています。

出川さん:おそらくいくつかの型があるんだと思います。作品販売型とか、アートプロジェクト型とか。もう商品ができていてそれを売りたいという人であれば、どう売るのかというアドバイスをどんどんすればいい。一方でアート型の人だったら、そのナラティブはかなり慎重に扱わないといけないですし、途中でやめるという選択肢も残してあげないといけない、など扱い方も変わるでしょう。クラウドファンディングの段階ではきっと気持ちが大いに揺れますが、その揺れの振り幅が、その後の納得感に変わる気がします。この経験を経て就職しても、自分でビジネスをやったときの手触りや、自分でハンドルを持っている感覚は絶対に残りますし、たとえば会社を辞めようと思ったときに、その感覚を思い出すことができる。それを実感するために、学生のときにビジネスに挑戦して揺れを味わうことは、大きな意味があると思います。

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